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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)4552号 判決 2000年5月16日

原告

吉永武雄

被告

岡本誠次

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、連帯して、原告に対し、金三八一八万六二三八円及び内金三七一八万六二三八円に対する平成七年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告岡本誠次(以下「被告誠次」という。)運転・被告敷島製パン株式会社(以下「被告会社」という。)所有の普通貨物自動車(大阪八八せ三三八六。以下「加害車両」という。)が平成七年四月四日午前四時一八分ころ、大阪府吹田市藤が丘町四番先路上(以下「本件事故現場」という。)において、歩行中の原告に衝突したことにより、原告が負傷した事故(以下「本件事故」という。)につき、原告(昭和一三年一月一五日生まれ。当時五七歳)が民法七〇九条に基づき被告誠次に対し、自賠法三条に基づき被告会社に対し、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定される事実

(一)  本件事故が発生したこと。

(二)  本件事故につき、被告誠次が民法七〇九条の責任を負うこと、被告会社が自賠法三条の責任を負うこと。

(三)  原告の症状は、平成八年八月一日、症状固定したこと、原告は、本件事故による後遺障害につき、自賠責保険一二級一二号の後遺障害認定を受けたこと(乙一六の一)。

(四)  原告は、頭部外傷Ⅲ型、頸部捻挫、右肩・右肘挫傷、両手指拘縮の障害を負ったこと(乙一六の一)。

(五)  原告は、本件事故後、次のとおり各病院に入・通院したこと(甲一一、一二、乙一二ないし一六)。

a 市立吹田市民病院内科

入院 平成七年四月四日から同五月二四日(五一日)

通院 平成七年五月二五日から同八月三〇日(実通院六日)

b 市立吹田市民病院整形外科

通院 平成七年四月二六日から同八月三一日、同年一一月一五日、同年一一月二二日、平成八年七月一〇日(実通院五六)

c 辻井歯科医院

通院 平成七年五月二五日から同六月一四日(実通院六日)

d 大阪脳神経外科病院

通院 平成七年八月四日(実通院一日)

e 済生会中津病院

通院 平成八年二月五日から同八月一日(実通院七日)

二  争点

本件事故による原告の損害額、特に休業損害、後遺障害逸失利益、損益相殺、損害額算定の関連で、事故態様、過失割合(原告主張の損害額は、別紙原告主張損害額記載のとおりである。)

第三  争点に対する判断

一  事故態様(過失割合)

証拠(甲一〇、乙一、原告本人、被告岡本誠次)及び弁論の全趣旨によれば、被告誠次は、加害車両を運転して、平成七年四月四日午前四時一八分ころ、南から北に向けて、規制速度時速二〇キロメートルの幅員五メートルの道路を、時速三〇キロメートルで進行したところ、折から、原告が散歩のため、同所を北から南に向けて道路の左側端を歩行してきたこと、原告は、進行してくる加害車両の直前で、目の前が真っ白になって、体がふらついたため、加害車両のライトが目に入り、危ないと思い、衝突を回避しようとして、道路中央の方に出たこと、そのため、被告誠次は、危ないと感じ、加害車両につき急制動の措置を採ったが、間に合わず、加害車両と原告が衝突したものであることが認められる。以上によれば、被告誠次は、進路前方に、原告が道路の西側を歩行して進行してくるのを発見したのであるから、原告と衝突することがないよう、原告の動静に十分注視して、制限速度を遵守しつつ進行すべき注意義務があるがあるのに、これを怠った過失により、原告と衝突したということができる。他方、原告は、加害車両の直近手前で、目がくらみ、道路中央の方に出たため、加害車両と衝突したのであって、原告も過失を免れないということができる。

以上認定の本件事故の態様、原告・被告誠次の過失内容等によれば、本件事故の発生につき、被告誠次の過失が大きいが、原告にも、加害車両が接近してくるのに、目がくらんだとはいえ、道路の中央方向に出るなどした点において、相当の過失があるということができる。これによれば、本件事故の発生につき、被告誠次の過失が七割であるのに対し、原告の過失は三割であると認定するのが相当である。

二  損害額

証拠(乙一二ないし一六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、平成七年二月二〇日、口渇を主訴に吹田市民病院内科を受診した。その際、原告は、四七歳頃から、糖尿病に罹患している旨話した。同日、同病院眼科を受診し、両糖尿病性網膜症、両高血圧性眼底の診断を受けた。原告は、その後、通院し、光凝固の施行等を受けた。

原告は、平成七年四月四日の本件事故後、直ちに市立吹田市民病院に緊急搬送され、昏睡の状態にあったため、脳神経外科を受診し、脳のCT検査を受けたが、異常がなかったので、同病院内科に入院した。同月一〇日、意識が改善し、応答もしっかりした状態となった。同月二一日には、ほぼ通常人と同程度まで回復した。原告は、同月二六日以降、同病院整形外科を受診し、主として肩の症状を訴え、右肩関節周囲炎、右肘外側側副靱帯損傷につき、関節可動域改善のためのリハビリを開始した。原告は、同月二七日、同病院眼科を受診し、両糖尿病性網膜症、高血圧性眼底、老人性白内障の診断を受けた。原告は、引き続き、市立吹田市民病院で治療を受けた後、平成七年五月二四日、市立吹田市民病院を退院した。原告は、平成七年六月二八日、同病院整形外科に通院し、初めて、頸部痛を訴えた。原告は、同病院整形外科において、平成七年一一月二一日、頸椎のMRI検査を受けたところ、第六頸椎と第七頸椎との間に脊髄圧迫の症状が見られた。なお、その際、原告の椎骨に骨棘が見られるなど経年性の変形性脊椎症が存することが判明した。なお、原告の同病院整形外科での受診は、平成七年一一月二二日以降は、平成八年七月一〇日まで存しない。

原告は、平成八年二月五日、済生会中津病院整形外科を受診し、頸部痛と手指拘縮を訴えた。原告は、同月八日、筋電図検査を受け、頸部病変が否定できないものの、糖尿病性の多発神経症がある旨の診断を受けている。原告は、平成八年二月一五日、MRI検査の結果、第四頸椎と第五頸椎、第五頸椎と第六頸椎、第六頸椎と第七頸椎との間にそれぞれ椎間板の膨隆が見られた。なお、原告は、本件事故による症状のため、平成八年二月五日から平成八年八月一日までの通院期間中、七日通院したが、いずれも、診察と検査を受けたのみで、治療は受けていない。

原告は、平成八年六月二九日、左第四趾の糖尿病性壊疸を来たし、血糖値上昇のため、済生会吹田病院内科に入院した。

原告は、本件事故後、平成八年八月一日まで、実質的には、青果業に従事することができなかった(もっとも、原告は、店での販売などの点において、若干手伝いをした。)。

以上認定の事実によれば、原告は、頸椎に、経年性の変形性脊椎症の素因を有していたところ、本件事故による衝撃によりこれが発症したため、頸部(特に第六頸椎と第七頸椎の間)に損傷を受けたというべきであるが、他方で、原告には既往症として糖尿病(及び糖尿病性の多発性神経症)が存し(その病状はかなり進展している。)、前記入通院を通じて治療の長期化及びその間、原告が青果業に自ら従事できなかった点において、この影響が存し、前記認定の事実に照らせば、これらによる寄与ないし影響の程度は、少なくとも、三割を下らないということができる。

なお、原告の入通院、休業は、そのすべてが本件事故によるものではなく、上記のとおり、変形性脊椎症の素因の寄与に加え、原告の既往症である糖尿病の影響によるものが含まれているというべきであるが、この寄与分につき、入通院慰謝料、休業損害に関し、後記のとおり素因減額をする。

以上を前提に、本件事故による原告の損害額を検討する。

(一)  入通院慰謝料 一一九万〇〇〇〇円

原告は、本件事故により前記認定の傷害を負い、本件事故後前記認定の期間にわたり入通院したことが認められるので、これによれば、原告の入通院慰謝料としては、一七〇万〇〇〇〇円をもって相当と認めるが、前記入通院期間につき、原告の既往症である糖尿病等の影響は三割を下らないというべきであるので、結局、原告の入通院慰謝料は、一一九万〇〇〇〇円となる。

(二)  休業損害 五二二万六四八〇円

証拠(原告本人)によれば、原告は、本件事故の発生した平成七年四月四日から平成八年七月末までの間、実質的に青果業に従事することを休業することを余儀なくされ、代わりに原告の妻の吉永節子がこれに従事したが、原告が休業している期間、利益をあげることができず、損失を出したことが認められる。この点、原告は、原告作成の甲四、五を基に算出した平成六年度の後半期の月額平均収益一二一万三九四五円と原告が休業していた間に発生した月額一四万六四七〇円の損失との合計一三六万〇四一五円を基礎として算出すべきであると主張するが、原告は、平成六年度の確定申告に際し、所得金額を一八〇万円と申告しているに過ぎないこと(乙六)に照らし、原告本人尋問の結果を考慮しても、いまだ前記甲四、五の正確性を肯定することはできないので、原告主張の前記金額をもって、休業損害算定の基礎とすることはできない。そこで、原告につき、上記期間(一六か月間)につき、平成七年度の産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の全年齢平均賃金五五九万九八〇〇円(月額四六万六六五〇円)を下に休業損害を算出すると、七四六万六四〇〇円となる。ところで、前記のとおり、原告が休業するについては、変形性脊椎症の素因の寄与に加え、原告の既往症である糖尿病の影響が三割を下らないというべきであるので、これに相当する分を減額すると、原告の休業損害は、結局、五二二万六四八〇円となる。

(三)  後遺障害逸失利益 三三九万四一二八円

原告には、証拠(原告本人)によれば、原告は、症状固定時(平成八年八月一日)、五八歳であることが認められる。前記のとおり原告には、自賠責保険一二級一二号の後遺障害(労働能力喪失率一四%)が存するというべきところ、内容・程度に鑑み、その存続期間は、五年と認めるべきである。そして、ライプニッツ方式により中間利息を控除して原告の後遺障害逸失利益を算出すると、その額は、次のとおり三三九万四一二八円となる。

五五九万九八〇〇円×〇・一四×四・三二九四=三三九万四一二八円

(四)  後遺障害慰謝料 九二万〇〇〇〇円

前記認定の原告の後遺障害の内容・程度(一二級一二号)に鑑み、原告の後遺障害慰謝料は、原告主張の九二万〇〇〇〇円を下らないというべきである。

(五)  過失相殺

以上の合計一〇七三万〇六〇八円のほか、証拠(乙二、七、九)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、治療費・交通費として二六四万九九九八円(被告の平成一〇年一〇月二三日付け準備書面参照)の損害を被ったことが認められるので、この合計金額一三三八万〇六〇六円から三割相当分(原告の過失割合)を控除すると、残額は、九三六万六四二四円となる。

(六)  損益相殺

証拠(乙二、七、九)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故に関し、前記の治療費・交通費の損害につき二六四万九九九八円の支払を受けたことを認めることができる。さらに、証拠(乙二、五、八、一〇、証人木村修敏、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社ないし被告会社の任意保険会社は、原告の休業損害に変わるものとして、妻の吉永節子を介して、原告の了解の下、商品の仕入れ等のために日本軽トラック協会から運転手付きでトラックを派遣し、また、販売のためのパートを派遣し、この費用として合計一二一八万一一七三円を要したことが認められるところ、その性質に鑑み、これまで中心となって青果業に従事してきた原告に代わって、原告の妻の吉永節子が営業に従事する中で、これらの支出は少なくとも七割の限度(八五二万六八二一円)において原告の働きに代替し得るものというべきである。

そこで、前記過失相殺後の損害額九三六万六四二四円から前記の合計額一一一七万六八一九円(二六四万九九九八円と八五二万六八二一円)を控除すると、残額は、マイナス一八一万〇三九五円となる。

(七)  原告の損害額

以上によれば、原告には、もはや、損害が存しないことになる。

第四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦)

原告主張損害額

1 入通院慰謝料 252万0000円

2 休業損害 2176万6640円

原告は、昭和58年頃から、大阪府交野市倉治七丁目8番11号において、平屋建て店舗(約10坪)を賃借し、市場形式で青果店を営んでいたが、同所において、本件事故の翌日である平成7年4月5日からスーパー形式で新店舗を開店する予定であった。そのため、原告は、平成7年1月1日から同4月4日まで営業を休止していた。平成6年後半期の月額平均収益は121万3945円であった。原告は、本件事故の発生した平成7年4月4日から同5月24日まで入院し、その後平成8年7月末まで通院を余儀なくされ、この間、稼働することができなかった。平成7年4月5日から平成8年7月末までの間、原告に代わり、妻が上記青果店の営業に従事したが、この間、月額平均14万6470円の損失が発生した。本件事故により、原告が被った休業損害は、本件事故前の月額平均収益121万3945円と原告が休業していた間に発生した月額14万6470円の損失との合計136万0415円を基礎として算出すべきである。そうすると、原告の休業損害は、次のとおり2176万6640円となる。

136万0415円×16月(平成7年4月から平成8年7月までの16月)=2176万6640円

3 後遺障害逸失利益 1197万9598円

原告の後遺障害逸失利益は、次のとおり1197万9598円となる。

121万3945円×12×0.14×5.874(後遺障害の存続期間7年の新ホフマン係数)=1197万9598円

4 後遺障害慰謝料 92万0000円

5 弁護士費用 100万0000円

6 損害合計 3818万6238円

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